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ロス: Okay, well, if she always behaves like this, why don't you say something? (なぁ、もしあの人がいつもこんな風に行動するのなら、何か言ったらどうだよ?[どうして何か言わないんだよ?])
チャンドラー: Because it's complicated. It's complex! Hey, you kissed my mom! (それ(言わない理由)は複雑だからだよ。複雑なんだ! なぁ、お前は俺のママにキスしたんだぞ!)
[People turn to look]
人々が振り向いて見る。
ロス: [To the rest of Central Perk] We're rehearsing a Greek play. ([セントラルパークの(自分以外の)人たちに] 僕たちはギリシャの芝居のリハーサルをしてるんです。)
チャンドラー: That's very funny. We done now? (それはすごく面白いな。もう(俺たちの話は)終わりだな?)
ロス: No! Okay, you mean, you're not gonna talk to her, you're not gonna tell her how you feel? (違うよ! 君は君のママに話すつもりはないのか? 君は自分の気持ちをママに話さないつもりなのか?)
チャンドラー: That would be no. Look, just because you played tonsil tennis with my mom doesn't mean you know her. Alright? Trust me, you can't talk to her. (その答えはノー[言わない]、だな。なぁ、ただ俺のママと扁桃腺でテニスをしたからって、それであの人をわかったことにはならないんだぞ。いいか? 嘘じゃない、あの人とは話なんてできないんだ。)
ロス: Okay. "You can't" or [Points to Chandler] you can't? [Chandler grabs his finger] Okay, that's my finger. [Chandler twists it and Ross goes down on one knee] Okay, that's, that's my knee. [To Central Perk] Still doing the play. Aaah! [turns groan into singing] (そうか、話なんて「誰にもできない」のか、それとも[チャンドラーを指さして]君が話ができない、のか? [チャンドラーはロスの指を摑む] よし、それは僕の指だ。[チャンドラーはロスの指をひねり、ロスは片膝をつく] よし、それ[今度]は僕の膝だ。[セントラルパークの人に向かって] (僕たち)まだ芝居をやってるんだ。アー! [唸るのが歌っているのに変わる])
Why don't you say something? は「(君のママに)何か言ったらどうだ?」。
Why don’t you...? を直訳すると「なぜ…しないのか?」ですが、これは親しい相手に提案する時の決まり文句で「…したらどう(ですか)?」と訳すことができます。
ただ、今回の場合は、ロスがこう言った後、チャンドラーは Because「なぜなら、(なぜ…しないのか、という)その理由は」と答えていますので、文字通りの「なぜ?」の意味で捉えてもよいでしょう。
complicated は「複雑な」。
complex は形容詞で「複雑な、込み入った」。名詞で「コンプレックス、強迫観念」、また精神分析用語の「コンプレックス、複合」という意味もあります。
そして、精神分析の用語としては、エディプス・コンプレックス(Oedipus complex)、エレクトラ・コンプレックス(Electra complex)というものも有名です。
Oedipus complex 「エディプス(オイディプス)・コンプレックス」とは、息子が母親に対して、無意識のうちに性的欲求を持ち、同時に父親に対しては憎しみの気持ちを持つことを指します。フロイトが提唱した概念です。
Electra complex 「エレクトラ・コンプレックス」はその逆バージョンで、娘が父親に対して、無意識のうちに性的欲求を持ち、同時に母親に対しては憎しみの気持ちを持つことです。こちらはユングが提唱した概念です。
エディプス(オイディプス)・コンプレックスの名前の由来は、ギリシャ悲劇「オイディプス王」の主人公オイディプスが「父を殺し、母と交わった」ことから。
エレクトラ・コンプレックスも、同じくギリシャ悲劇の「エレクトラ」の主人公エレクトラが「父への愛情から、父を殺した母に復讐する」ことから来た言葉。
(エレクトラ、と言えば私は、庵野監督の「ふしぎの海のナディア」のエレクトラさんを思い出す、、)
チャンドラーのセリフは、Because it's complicated. It's complex! という風に、complicated, complex という「複雑な」という似た言葉を繰り返していますが、2番目の complex は上で説明したようなそういう「精神分析上のコンプレックス」も匂わせているような気がします。
complex は、「いろんな要素が絡み合っていて簡単ではない、簡単には解決できない」という意味の「複雑」と、エディプス・コンプレックスのように、自分の母親が男性に対してだらしないことで、言いようのない気持ちを感じてしまう、という異性の親に対する精神分析上の complex 「複合」の意味をも含めていると考えられるのではないかということです。
このセリフの前に、Freudian nightmare 「フロイト的な悪夢」という言葉が出てきたのも、そういう母親に対する複雑な感情(complex)を指す言葉であるフロイト心理学(精神分析論)の「エディプス・コンプレックス」がイメージとしてあった、ということでしょう。
「俺のママにキスした!」と言われたロスは、とっさに「ギリシャの芝居のリハーサル中だ」と言って、周りの目をごまかそうとしています。
Greek play は「ギリシャの劇、芝居」ということですが、この場合は、「ギリシャ悲劇(Greek tragedy)」を指しています。
古代ギリシャのアテナイ(現在のギリシャの首都アテネ)で上演されていた劇のことで、ギリシャ文化の代表として、高校の世界史にも登場します。
三大悲劇詩人として、アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスの三人が有名です。
ギリシャ悲劇は、ギリシャ神話の登場人物が使われることが多く、そういう神話では、近親相姦的な話も多いです。
チャンドラーが言ったのは「お前は俺のママにキスした」ですから、近親相姦ではないですが、友人の母親にキスするということは、現在の倫理観では不道徳ということになるでしょう。
ギリシャ悲劇の世界なら大いにあり得る話なので、そのお芝居の練習をしてるところなんだとごまかしたわけです。
ソポクレスは、ギリシャ悲劇の中で最も有名と言われる「オイディプス王」の作者。さきほど説明した、「オイディプス・コンプレックス」の言葉の元になった悲劇です。
そこでも説明したように、「オイディプス王」という作品は、主人公オイディプスが「父を殺し、母と交わった」話ですから、(友人の母ではあるものの)母親との性的な話の流れでここでロスが言っている a Greek play も、「オイディプス王」をイメージしたものだと思われます。
「エレクトラ・コンプレックス」の語源となったエレクトラは、ギリシャ神話に登場する人物であるために、アイスキュロスの「オレステイア」、ソポクレス、エウリピデスの「エレクトラ」など、複数のギリシャ悲劇に登場します。
このエレクトラの父親がアガメムノンです。
アガメムノンは、今回のエピソードの過去記事、自分の殻から出る フレンズ1-11改その6 の以下の会話に登場していました。
フィービー: What about Glen? He could be a Glen. (グレンはどう? 彼がグレンって名前なの、ありそうだわ。)
モニカ: Nah... not-not special enough. (んーん、あまり特別な感じがしないわね。)
フィービー: Ooh! How about Agamemnon? (あぁ! アガメムノンはどう?)
モニカ: Way too special. (あまりにも特別すぎる。)
つまり、フィービーが a coma guy の名前の候補に挙げていた名前がアガメムノンで、その会話では「何の脈絡もなく唐突に出てきたような突拍子もない名前」という印象でしたが、チャンドラーとママとの関係を示唆する「オイディプス・コンプレックス」やそれと同じ流れの「エレクトラ・コンプレックス」という言葉と、a Greek play の登場人物という共通項で繋がっていた、ということになるでしょう。
つまり、
・complex という単語、「ママにキスした」という母親にまつわる性的な話、ギリシャ悲劇
そこからイメージされる、親との関係性にまつわる精神分析上のコンプレックスは「エディプス・コンプレックス」と「エレクトラ・コンプレックス」
・エレクトラ・コンプレックスの元となったエレクトラの父親がアガメムノン。
・昏睡男の名前候補として、フィービーが適当に挙げたような名前「アガメムノン」は、「ギリシャ悲劇が語源となったコンプレックス」に深い関係ある人物だった。
ということで、今回のエピソードでは、フロイト/ユング的精神分析とそのコンプレックスの話が密かなテーマとして隠されていた、という感じです。
Look, just because you played tonsil tennis with my mom doesn't mean you know her. について。
tonsil は「扁桃腺(へんとうせん)」。
つまり、tonsil tennis は「扁桃腺でテニスをする」ということで、扁桃腺をラケットに見立てて(形も似ているようですし)ラリーをするようなニュアンスが出るために、下を奥まで入れるような激しいディープキスという感覚に繋がるようです。
「自分の気持ちを言わないつもりなのか?」とえらそうに説教されたのがムカついたのでしょう、一度そういうキスをしたくらいで、あの人をわかったつもりになるなよ!と言いたいということです。
チャンドラーは Trust me, you can't talk to her. と言っています。
この you は、チャンドラーから見た「あなた」であるロスのことを言っているというよりも、「あなたを含めた人々」という「一般の人々」を指す感覚になるように思います。
you can't と言う時に、手がややロスの方を向いている気もしますが、ロスを指さしているというよりも「できない」という否定の意味を強調するように手を斜め横に動かしているように感じました。
「(ロスも含めて)人は誰も、ママ(ノーラ・ビング)と話をすることができないんだ、話をしようとしても話にならないんだ、説き伏せたりわかり合えたりすることは不可能なんだ」と言っている感覚だと思います。
DVDの日本語音声(吹替)では「あの人には何言っても無駄なんだよ」と訳されていましたが、まさにそんな感じで、ロスが話しても他の誰が話しても無駄なんだ、というニュアンスだと思うわけです。
その後のロスのセリフでは、You can't. というセリフを2回言っています。
1回目は "you can't" の部分で、指を曲げることで引用符マークを作っています。このようにしぐさで引用符マークをつけると、「いわゆる you can't」のような感覚になります。
「いわゆる you」だと、you=あなた、という文字通りの意味としてロスを指している可能性も考えられますが、ロスがこの you で自分を指しているとすると、引用符ジェスチャーではなく、自分を指さすような気がします。
もしくは I can't のように、話者であるロスの立場に合わせて代名詞を変えるように思います("I love you." "You love me?" のように瞬時に代名詞を入れ替えるイメージ)。
ロスの1回目の you can't では、自分を指さしてもいないし、主語を I に言い直してもいないので、「いわゆる you can't」が指す you は、英語でよく使われる(という意味での「いわゆる」の)「一般の人々」を指しているように思いました。
ロスの2回目の you can't では、you というのはお前のこと? のようにチャンドラーを指さしています。
これは意味としてはまさに「会話の相手となる”あなた、君”」であるチャンドラーのことを言っています。
さきほど「一般の人々を表す you」について説明しましたが、「あなたを含めた人々」から「一般の人々」を意味することになる you は、回り回って話者本人(自分)も含むことになるため、自分のことを話す際に主語を you にすることも英語ではよくあります。
そのように「一般の人々」を表す you には、話者自身を指す用法もあることから、ロスはそのことを指摘するように、「今、君が言った you は”一般の人々”の you か? それとも自分自身のことか?」のように返した、ということかなと思います。
ママはあんな人だから話にならないんだ、話をしても無駄なんだ、とママのせいにしたチャンドラーに対して、「問題はママじゃなくて、話そうとしない君にあるんじゃないのか?」と、チャンドラーの気持ちの問題じゃないか、と指摘している感覚なのだろうと思いました。
そう言われたチャンドラーは、言葉で反論せず、「君が」と指さしたロスの指を強く掴みます。
片膝をついたロスは、周りの客の視線を浴びながら、まだ芝居をやってるんだと言い、痛くて声が出てしまうとそれが芝居の歌であるかのように手ぶりをつけて歌い始めます。
チャンドラーの無言の攻撃を、ギリシャの芝居ネタが続いているかのように見せながらごまかしているのが面白いシーンとなっています。
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