4人がケンカを始めようとした時、貴重品を入れたキャップ(帽子)を誰かが盗んで行きました。
それをを追いかけていった4人。
セントラルパークに戻ってきた時にはすっかり意気投合しています。
ロス: God, that was amazing. That was incredible. You guys kicked butt! (すごい、あれはすごかった。信じられないくらいだったよ。君たち、大活躍だったよね。)
アーサー: Us? What about you guys? You really gave it to old Mr. Clean back there. He was a big guy. (俺たち? お前たちこそどうなんだよ? あそこであのいまいましいミスター・クリーンをガツンとやっつけただろ。彼は大男だったのに。)
kick butt の文字通りの意味は「尻を蹴る」。
もう少しお下品な表現で kick ass というのもありますね。
Merriam-Webster Online Dictionary の意味は以下のとおり。
kick butt : to use forceful or coercive measures in order to achieve a purpose; also : to succeed or win overwhelmingly
訳すと、「目的を達するために強力で威圧的な方法を用いること。または、成功すること、圧倒的に勝つこと」
ロングマン現代英英辞典では以下のとおり。
kick ass : (informal not polite) used to say that someone or something is very good or impressive
訳すと「とても良い、または印象的な人や物を言うときに使う」
ハイフンでつなげて形容詞になると、
kick-ass: strong, powerful, and sometimes violent
「強い、強力な、時には乱暴な」
ということなので、kick butt は「(誰かの)お尻を蹴る」という行為そのものを言っているのではなく、「強くてすごい、最高だ、圧倒的だ」みたいな意味になるようです。
give it to someone は「人をしかりつける、人を殴る、やっつける」。
old Mr. Clean の old ですが、これは「老いた、古い」という意味ではありません。
話者の気持ちを込めた言葉、という感じでしょうか。
英辞郎には、
old = (俗)いまいましい
例: I had a big old knot on my face. 「私は顔に大きないまいましいこぶができた。」
とあります。
このセリフの old はこの感じに近いかなぁ、と思います。
さらにちょっと面白いのは、同じく英辞郎に
old = (話) 親しい〜ちゃん、親愛なる〜
という意味も載っているんですね。
ロングマン現代英英辞典の old の項目を見てみると、
old fool / bastard / bat etc: (spoken not polite) used to talk very rudely about someone you do not like
例: the old stupid old cow
訳すと「自分が好きではない人のことを乱暴に(失礼に)語るときに使う」
また、別の表現では、
old devil / rascal etc: (spoken) used to talk about someone you like and admire
例: You old devil! You were planning this all along!
訳すと「自分が好き、または称賛する人について語るときに使う」
つまり、後ろに来る名詞によって、良い意味にも悪い意味にも使えるのですね。
devil は「悪魔」、rascal は「いたずらっ子、わんぱく小僧」「ならず者、ごろつき、悪党」という意味なので、それに old まで付けてしまうと、悪い意味を強調しているように見えるのですが、それが親愛の情を表す表現になる、というのが面白いと思います。
その言葉を発した状況・表情・イントネーションなどで良い意味か悪い意味かは判断できるのでしょうが、パッと文字だけ見たら、その辺はよくわからないですよねぇ。
上の例文の You old devil! も「この鬼! 悪魔! 血も涙もない極悪人!」という意味ではなくて、「あなたっておちゃめな小悪魔ね。ん、もう、いじわるぅ。(←大阪弁では「この、いけずぅ…」と言います…笑)」という親愛の情、相手のことを憎からず思っている気持ちなどが込められているんだろうと(私は勝手に)思っています。
で、脱線しましたが、上のセリフは、貴重品を盗もうとした相手なので、「あの憎らしいやつが」という悪い意味で old を使っているのだと思います。
アーサーは相手の泥棒のことを Mr. Clean だと言っていますね。
その説明は、明日にします(笑)。
(Rach からのお願い)
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Lawrence BlockのMatt Scudderもので、Matt(どんどん年をとって、最新作では60歳オーバーだったような・・でもまだ現役ハードボイルド主人公)に対してgirlfriend(後に奥さんになった)のElaineがmy old bearと呼びかけていました。和訳ではしっかりとmyもoldも訳出していて「私の老いぼれ熊さん」となってたと思います。こんな風に日本語で誰かに呼びかけることはないけど、小説で読んでいると逆に雰囲気が出ていいなぁと。自然な日本語にするばかりが翻訳ではない、という例だと思いました。抱っこしまくってくたくたになってるTeddy Bearが思い浮かぶなぁ、と。それは、元のbearという言葉のチョイスのなせる技でもあるのですが。
oldをネガティブな意味で使う方は、何となく「古い→融通が利かない/ひねくれている/意地が悪い」というつながりがベースにあるのかな、と。
あるいは「見向きもされないで放っとかれて古ぼけた」というイメージでしょうか。昆布の乾いたバッテラ(って大阪弁やって知ってた、Rachやん? 京都では単に「サバ寿司」やて)というか。
Lawrence Block って、先日の this の使い方のコメントにも登場してましたね。おちかちゃん、かなりその人の小説好きなんだねぇ。
「私の老いぼれ熊さん」ってすごい呼びかけだと思うけど雰囲気は確かに出てますね。親愛を表す old というのは必ずしも「年老いた」という意味があるわけではないけれど、この小説みたいな年齢の人の場合はそれでしっくりくる気がします。
「老いぼれ」って言葉自体はちょっとキツいけど、「古女房」という日本語のニュアンスや、「お互い、歳を取りましたねぇ」みたいな納得、「長年連れ添った、腐れ縁の」みたいな感じも醸し出す、というか…?
これを日本語風に、「ねぇ、あんた」(?)と訳してしまうと、雰囲気出ないしねぇ。やっぱり、honey や sweetie みたいな親愛の情を込めた呼びかけ語って、ハニーやスウィーティとしか言いようがない気がするんですよ。これを日本語に訳せないのは、いつも残念だなぁ、と思っています。
old が必ずしも「年老いた」ではない、という話なんだけど…。
上の記事を書いた時はすっかり忘れていたのですが、週刊STという抄訳付き英字新聞の2006年9月22日号(つい最近ね)の宮脇孝雄さんの「翻訳の料理法」というコラムに、
「old man は「老人」とは限らない」
という話が載っていたのを、今ふと思い出しました。
そのコラムから引用させていただくと、
「探偵事務所に勤める探偵たちが、50歳くらいの所長のことを old man と呼ぶ、この場合は「ボス」または「おやじさん」と訳すことができる」
「父親(father)の意味で、old man が使われることもある。これも実年齢とは関係がなく、15歳の少年が37歳の父親のことを my old man と呼んだりする。「うちのじいさんがね」と訳してはいけない。」
「親しい男の友人同士が相手のことを old man と呼ぶ場合は、「ねえ、きみ」に近い呼びかけの言葉」
ということだそうです。
上で old の説明にこだわってみたのは、この記事を読んだ記憶があったからみたいですね。記事を書くときにちゃんと思い出しておれば、上の辞書の語義と一緒に説明できたのになぁ…何で忘れてたんだろう?(笑)
ネガティブな意味は、研究社 新英和中辞典に以下のような意味があります。(必ずしも「ネガティブ」とも言い切れないけど)
old =老練な、老巧な、こうかつな
an old offender 常習犯、 an old sailor 老練な船乗り、 old in crime [diplomacy] 罪を重ねている[外交経験が老練な]
この語義の場合は、「長年それをやってきて、それがすっかり体に染み付いている」みたいな感じでしょうか。
上の old Mr. Clean の場合は、今会ったばかりの人だから、アーサーにとっては「なじみ」の人ではないけれど、かなりひどい表現をすると、「性根の腐ったワル、根っからのワル」というか、盗み癖が身についてしまっているあの悪いヤツ、という感じなのかなぁ、とも思いますねぇ。上の例の「常習犯」「罪を重ねている」に通じるところがあるのかもしれません。
old の基本的意味は「年齢を重ねている」ということでしょうから、好意的な場合はそれだけ親愛の情が深い、相手を嫌悪している場合は「長年の経験から、もうその性格が動かしようもなく固まってしまっている、どうしようもないやつ」みたいな憎憎しげな感じが出るのかもしれませんね。(何となく、そう思うだけですが…)
P.S. バッテラって、ポルドガル語から来たらしいですねぇ。大阪弁やとは知らんかった…うちの亡くなったおばあちゃんの大好物やった…(泣)