2007年05月03日

助詞「が」「は」の話 フレンズ3-3その8

フレンズ3-3その5 で、
フィービー: ...everywhere I look, there's you.
というセリフが出てきました。
そして、それに関連して、There 構文について私の思うところを書いたのですが、その記事のコメント欄で、「日本語の助詞「が」「は」の使い分け」に関するコメントをいただきました。
大変興味深いお話だと思ったので、コメント欄のご意見を参考にしながら、日本語の助詞「が」「は」の機能・役割などを説明し、There 構文との関係について探ってみたいと思います。
(あくまで「私はそんな気がする」という程度の内容ですので、そんな意見もあるのか…くらいに聞いておいて下さい。)

The Japan Times 発行の、伊藤サムさんの著書 第一線の記者が教える ネイティブに通じる英語の書き方 Write Like a Pro の p.29 に、日本語の助詞「〜が」と「〜は」の訳し分けに関する課題が載っています。
そこに以下のことが書いてあります。

多くの場合、助詞の「〜が」は 冠詞 a, an に対応し、助詞の「〜は」は the に対応する。

つまり、日本人が苦手な冠詞の「特定」「不特定」ですが、日本人も助詞「が」「は」の使い分けで同じようなことをしているのだ、ということですね。

サムさんは、日本の昔話の冒頭部分(昔、むかし、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは…)を使って、a と the の使い分けを説明されていて、非常にわかりやすいです。
興味のある方は是非、サムさんの著書をご覧になって下さい。

今日の私の記事では、冠詞との関係ではなく、There 構文と「が」「は」との関係について語るのですが、同じように「昔話の冒頭」を例として使ってみたいと思います。

まずは日本語の助詞についての話なのですが、細かい文法用語に興味のない方は飛ばして下さい(笑)。

「が」と「は」の広辞苑での語義は以下のとおり。(重要だと思われる部分には、私が下線を引きました。)

が=(格助詞) 主格を示す。
(1) 体言、活用語の連体形について主語を表す。
例文) 雀の子をいぬきが逃がしつる (源氏物語 若紫)

わ(は)=(係助詞) 体言・副詞・形容詞や助詞などを受け、物事を他と区別して取り上げ、その説明を下文に期待させて、下文をも引き立てさせる。下文は終止形で終止する。(この助詞は、主格・目的格・補格などの格の区別を示すものではない)
(1) 他と区別して取り出していう意を表す。
例文) はじめより我はと思ひ上がり給へる御方々 (源氏物語 桐壺)


これまで、私は、「が」「は」のどちらも、主語(主格)を示す助詞だと思っていたのですが、広辞苑ではその辺りを、「が」は格助詞、「は」は係助詞として厳密に区別しているようです。

念のために、広辞苑に載っている、格助詞、係助詞の語義を書いておきます。

格助詞(かくじょし)=助詞の分類の一。主として体言につき、その体言と他の語との格関係を示す助詞。「桜が咲く」「枝を折る」の「が」「を」の類。文語では「が」「の」「を」「に」「と」「へ」「より」「から」「にて」、口語ではこのほかに「で」がある。

係助詞(かかりじょし)=助詞の分類の一で、係りに用いる助詞。述語に関係する語に付いて、その句の陳述に影響を及ぼし、また句末に付いて文の成立を助ける働きを有する助詞。文語の「は」「も」「ぞ」「なむ(なん)」「や」「か」「こそ」、口語の「は」「も」「しか」など。けいじょし。


今まで「が」や「は」について、こんな風に厳密に文法に照らし合わせて熟考したことはないのですが(笑)、日本人が自然に持っている言語感覚で、上に書かれてあるような内容について何となくわかっている気はしますよね。

昔話で、「おじいさんとおばあさんが住んでいました。」という時には、「誰が」住んでいたのか、というのがポイントで、住んでいた、という述語(動詞)の主格が誰かを示すために、「が」という格助詞が使われています。
そして、「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。」という場合は、「おじいさんは」の「は」には、おばあさんでもないし、その他の誰かでもない、という「他と区別する」機能が働いていて、同時に、「その説明を下文に期待させて」いるという機能もあるわけですね。
この文のポイントは、「その人(既知の人物)が、”何をしたのか”」という部分にポイントがあるわけです。

There's you. などの There 構文の感覚は、最初に There is などの存在を表す構文が来ているので、「何かが存在する」ということを前もって示していて、その存在するものは何かと言うと、you である、と There is の後に新しい情報を提示している形になっているのでしょう。
その There 構文をその語順のまま日本語にすると、「ある人がいるの。それ「は」あなたよ。」という感じになるのでしょうね。
「それはあなたよ。」の「は」には、「説明を下文に期待させる」機能があるので、「それは」の次の「あなた」にポイントが来る、ということになるのでしょうか。

つまり、There's you. をもったいぶって訳すと(笑)、
「ある人が存在する…それは”あなた”よ。」
という感じになり、もう少しダイレクトに表現すると、
「そうだ、あなたがいるわね。」
になるのでしょうね。
どちらも「あなた」にポイントがあります。

There you are. は、「”そこに”、あなたは”いる”のね。」と、場所を表す there を前に出して強調していて、あなたという主語が「そこに居る(be)」ことにポイントがあります。

There 構文で既知のもの(the のついた名詞)を使う例として、フレンズ3-3その5 で引用した例文、
There's the [that] party. 「あのパーティーのことがある。」
There's Heather. 「ヘザーがいるじゃないの。(忘れてるの?)」

では、それぞれの日本語訳が、「パーティーのことが」「ヘザーが」と「が」になっていますね。
日本語訳に「が」を使うことで、その存在している主格(主語)が何であるかが新しい情報で、その文のポイントとなる部分である、ということを示しているのかなぁ、と思います。

英語の冠詞と、日本語の助詞は、文法的に品詞が異なるので、全く同じように置き換わる、とは言い切れないのだろうと思います。
実際、伊藤サムさんも、「多くの場合(そのように)対応する」と断りを入れておられますので…。
つまり、日本語訳で「が」か「は」のどちらを使うか?が重要なのではなくて、その文章に流れているニュアンスを掴むのに、「が」「は」の使い分けが有効だ、ということですね。

言葉を話す時にポイントとなるのは、「新しい情報を提供している」部分なのだと思います。
不定冠詞の a(an) が使われている時は、その不定冠詞の付いている名詞が新しい情報で、それを「引っ張り込む」ために、There 構文が使われるのでしょう。
そして、一度言及してしまうと、それはもう既知のものとなり、その存在は新しい情報ではなくなるので、以降は、the+名詞の形となり、それは「新しい情報を提供する」「引っ張り込む」 There 構文では使えなくなってしまう、ということなのかな、と思います。

結局、There 構文は「不特定の名詞」で使われる構文なので、サムさんのおっしゃる、「が」「は」と a(an), the の対応関係が、There 構文の和訳をする時にも関係してくる、ということなんでしょうね。
今日の記事は、そういう対応関係を There 構文の視点から眺めてみた、ということになるかと思います。

日本語の文法の話が多過ぎて、申し訳ありませんでした。

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posted by Rach at 08:20| Comment(2) | フレンズ シーズン3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
何気なくネット散歩していたら、たどり着きました。

「言葉を話す時にポイントとなるのは、「新しい情報を提供している」部分なのだと思います。
不定冠詞の a(an) が使われている時は、その不定冠詞の付いている名詞が新しい情報で、それを「引っ張り込む」ために、There 構文が使われるのでしょう。
そして、一度言及してしまうと、それはもう既知のものとなり、その存在は新しい情報ではなくなるので、以降は、the+名詞の形となり、それは「新しい情報を提供する」「引っ張り込む」 There 構文では使えなくなってしまう、ということなのかな、と思います。」

おっしゃる通り!
個人でここまで語感をとらえていらっしゃるのには敬服しました。
既に先行研究の知見として知られている事ですが、そういったことを勉強されていないのに、英文を吟味しただけで理解されているとしたら、たいしたものですね。
気がつかれた事を検証して、手続きに乗せれば、南谷さんの発見がいろんな人の助けになると思います。(語学研究をたきつけて恐縮ですが。)個人的に言うだけでは、そのとき限りで消えてしまうのですよ。惜しいですね。
日本語との対比も素晴らしいと思います。
もうちょっと調べてみれば、国語学で言う現象文や判断文との関連も見えてくるでしょう。

他の項目についても、きっとセンスの良いコメントをされていることでしょう。またお寄りしてみます。
Posted by 言語学徒 at 2009年01月01日 15:44
言語学徒さんへ
ご訪問&コメント、ありがとうございます。

私が上の記事で書いた内容を評価していただき、誠にありがとうございます。
英語を学んで、冠詞について深く考えるようになってから、「新しい情報か、既知の情報か」という部分が重要であることを知りました。英語の冠詞という概念は、日本語には存在しないものなので、どうしても日本語訳だけでは太刀打ちできない部分も多いのですが、日本語の場合でも、助詞の「が」「は」を使い分けることで、そういう違いを出している、というのがとても興味深いと思ったのですね。

日本語と英語を対比することで、それぞれの言語の特徴がはっきり見えてくる、ということもあるのかもしれません。英語を学んで、これまで以上に日本語という言語の面白さも知ることができたようにも思います。

私が気付いたこと、私の語感、とは言っても、私がこれまで読んできた英語関連の書物や文法書で知り得た知識が役に立ってきたことは言うまでもありません。そういう意味では、全く私独自の考え、とも言い切れない部分もたくさんあります。それでも、やはりこのように文字として、自分の考えを残しておくことは、今回のように、その分野に詳しい方のご意見を聞けることともなり、私にとっても非常に勉強になります。私のやっていることは「語学研究」と呼ぶにはほど遠いですが、これからもこういう方向性で意見を発信していけたらな、と思っています。
また、拙ブログの記事で、気になる点などありましたら、ご指摘いただけると幸いです。

コメント、ありがとうございました。
Posted by Rach at 2009年01月02日 07:27
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