2008年09月11日

英語でしゃべらナイト「寅さん海外へ」

2008年9月8日(月)放送の 英語でしゃべらナイト を見ました。
『男はつらいよ』 40年、寅さん海外へ
という内容でした。
NHK番組公式ホームページでの紹介はこちら。
英語でしゃべらナイト 『男はつらいよ』 40年、寅さん海外へ

番組の主な内容は、

・寅さんの名口上を英語に訳す
・字幕制作担当の方がセリフに英語字幕をつけていく様子を紹介
・日本語のセリフを、出演者全員で英語に吹き替え

というものでした。

私はいつもこのブログで、英語のドラマである「フレンズ」のセリフから「日本語で言うとこんな感じ」というニュアンスを掴もうとしていますが、今回の「しゃべらナイト」は、それの逆バージョン(「寅さんのセリフは英語で言うとこんな感じ」を追求する)なので、そういう意味でも非常に興味深かったです。

以下、内容を紹介しながら、感想を述べてみます。

寅さんファンであるという外国人の方2人がゲストとして来られていました。
一人目は、トニー・ラズロ(Tony LASZLO)さん。
番組でも紹介されていましたが、ベストセラーとなった、小栗左多里さんの「ダーリンは外国人」 の「ダーリン」がトニーさんなんですよね。
そのトニーさんは、私がいろいろとお世話になったジャパンタイムズの抄訳付き英字新聞「週刊ST」で、ずっと英文エッセー(コラム)を書いておられました。
…ので、私にとっては、「あのベストセラー本のダーリン」というより、「STでコラムを書いていた方」というイメージの方が強いです。
週刊ST ONLINE: Contributor Profile Tony Laszlo トニー・ラズロ
上のページから、トニーさんの英文エッセーも読めますよ。

「ばか野郎!、この野郎!」は、"Hey, you!" と訳される、という話から、トニーさんは、
「バカって言っても、頭が悪いって言っているわけではないんですよね。」
とおっしゃっていました。
まさにその通り。
セリフを訳すことは、単語を直訳することではない、そのセリフに込められた感情やニュアンスを、別の言語に直すこと、なんですよね。

もう一人のゲスト、カレン・ヘドリック(Karen HAEDRICH)さんが興味深い発言をされていました。
「寅さん、って、すごい、アメリカの situation comedy に近いと思ったんですね。」
その日本語での発言の際には、英語で字幕がついていました。
The movies are like American sit-coms.

そう、カレンさんは、寅さんがシットコムに似ている、とおっしゃったのです!!
それを聞いて、出演者全員が、なるほどぉ〜!という感じでうなずいていたので、出演者の皆さんは、シットコムというジャンルをよくご存知なんですよね?

私は「シットコム」という言葉を、ブログや本のタイトルに使っているのですが、「シットコム」という言葉の意味をご存じない方って結構おられるのです。
その言葉の知名度の低さにいつも寂しい思いをしているのですが、それが、こんな風にゲストの発言の中で普通に使われているところを見ると、やっぱり「知ってる人は知ってる言葉」という認識で良い、ということなんですねぇ??
(そこでもう一押し、「situation comedy や sit-com(sitcom)とは何ぞや?」の説明が入ると、私的にはさらに嬉しかったんですが…笑)

カレンさんは、寅さんを見て、もっと日本語を勉強しようと思った、とおっしゃっていました。
それと似た話では、海外でクール・ジャパンと人気のアニメやマンガから日本語に興味を持ち、それでたくさんの日本語を覚えた、という話もよく聞きますね。
私も、フレンズというシットコムを面白いと思って、フレンズたちのジョーク(特にチャンドラーのジョーク…笑)を英語で理解したくて、もっと英語を勉強しようと思ったのです。
その私の気持ちとカレンさんの気持ちがとても似ている気がして、大変共感を覚えました。

今回、この番組では、寅さんの有名な口上をどう英訳するか、ということにトライしていましたが、口上にはリズムが大切で、でも、そのリズムも維持する中で、できるだけ内容もオリジナルに近いものにしたい、つまりオリジナルで使われている言葉と似た言葉を探さなくてはならない、出来ることならその言葉で韻も踏みたい…ということで、とてもその部分の翻訳が難しいことであることがよくわかりました。

フレンズにはああいう口上は出てきませんが、あえて例えるとしたら、あのフィービーの名曲(迷曲?)を、あのメロディーに乗せて、リズムも壊さずに、日本語としても通じる、韻を踏んだ歌詞に直せ!というようなものです。
それはとても難しい。

同じ音の連発がリズムを作り、言葉が韻を踏み、それを早口で流れるように話すことによる口上の面白さ。
トニーさんが英語の早口の口上である、patter を実演して見せていました。
番組の最後では、パックンも寅さん風の口上を英語でしゃべっていました。
どちらもすごいです。「さすがはネイティブ」のすごさを知った感じでしたね。

「Let's dub into English! Pakkun's アテレコ」というコーナーでは、寅さんのシーンを一度日本語で見てみた後、出演者が英語アテレコに挑戦していました。
これも面白い試みだと思いました。
というのは、これは、声をアテる側の人にとっては、「その演じるキャストの気持ちになって英語を言う」という素晴らしい訓練になると思ったからです。

寅さんという映画を知っている我々日本人にとっては、そのワンシーンを見ただけで、登場人物がどういう状況にいて、どういう気持ちでいるかがよくわかりますよね。
私がフレンズ解説でよく使う「キャラ立ち」という言葉の通り、寅さんではみんな「キャラクターが立って」います。
そういう背景を知っているからこそ、それを英語に直したセリフを読む時でも、「その時のキャラクターの気持ち」になって言葉を出すことができるんですね。

この英語になったセリフを、その日本語のセリフのニュアンスを出そうと思いながら英語で読む、という行為が、その英語のセリフのニュアンスを深く理解することに繋がると思うのです。
まるで日本語で話しているように、その英語に気持ちを込めることができると思うのです。

番組中に吹き替えをしていた方々は、なんとかオリジナルの雰囲気を伝えようと思いながら、その英語のセリフを読んでいたはずです。
そうやって英語を読むことで、「あぁ、あのセリフは、こういう英語になるのか。」と言うことが直感的にわかるはずです。

あの吹き替えは番組の企画として行なわれたもので、家で吹き替えの練習をする必要はないのですが(笑)、大事なのは、あの「吹き替えに気持ちを込める」感覚で、自分の持っている日本語のイメージを、英語という言葉に投影していくことだと思うのですね。

本で文字として学んだ英語表現は、そういう「状況」「心情」「背景」に関する情報が不足しているので、なかなか実生活で使えるようにならないのかな、と思います。
逆に、ああいう映画やドラマで学んだセリフは、ストーリーとして状況や心情を理解しているために、「自分の言葉」として使えるようになるのだと思います。

寅さんの場合は、先に日本語があって、ニュアンスをわかった上で訳された英語を見つめることができます。
フレンズのセリフは英語なので、私はまずそのニュアンスをできるだけ深く理解しようとします。
そのために、字幕や吹替などの日本語の情報を利用します。
さらには、文法的知識を使って、英文の構造を分析し、セリフの内容をより深く理解しようとします。
そうやって、どういうニュアンスか掴めた上で、「日本語で言うとこんな感じ」という日本語訳を作ってみているわけですが、その日本語訳を作ることが最終ゴールではありません。
その日本語訳、日本語で理解したニュアンスを頭に入れた上で、その英語を読み、そのフレーズを自分で書いたり使ったりしていくことが大切なのです。
ただ、英語という音声を口から出すだけではない、ただローマ字を読み上げるだけではない、そのセリフに隠された気持ち、意味を意識しながら、言葉として使う、という訓練ですね。

映画などの文化が輸出されること、というのはその国の価値観や考え方を広げることにも繋がります。
翻訳という作業には大きな意味があって、まずは、そういう翻訳を通して、他国の人が作品の面白さを知るわけですね。
訳されて初めて輸出が可能になるわけです。
各国の作品がいろんな言語に翻訳されて世界中を駆け巡るという今の時代はとても素晴らしいと思います。

そんな風に、字幕や吹替、翻訳や通訳、という素晴らしい技術があるので、外国の作品を自国の言葉で楽しむことはいくらでもできます。
が、本当にそれが好きになったら、それをオリジナルで楽しみたい、という気持ちが出てくるのがほんとかな、と。
誰かに訳してもらうんじゃなくて、自分の心で肌で直接オリジナルを感じたい、という気持ちが、外国語を学ぶことに繋がるのですね。

私も、フレンズのセリフを「日本語で言うとこんな感じ」と、まずはそのイメージを解説を交えて伝えていくことで、少しでもフレンズという作品の魅力を多くの日本人に知ってもらえたらと思っています。
そして、それを面白いと思った人たちが、今度は自分自身の力で、オリジナルの英語のままで理解したい!、と思って下さることを心より願っています。

この番組は、今日 9月11日(木)深夜3:10〜(すなわち、9月12日(金)午前3:10〜)に再放送されますので、興味のある方は是非ご覧下さい。
英語でしゃべらナイトの、英語サブタイトルは、 Communication entertainment for a new era! ですが、そのサブタイトル通りの面白い企画でした。
楽しい番組をありがとうございました!


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posted by Rach at 09:50| Comment(2) | 英語学習のコツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ほんっとにご無沙汰しています。
試験のために「フレンズ」から離れてからというもの、
なかなかドラマを見る時間を作り出せず、こちらにも
とんと伺えないまま...。
実は先日、どうしてもロスとレイチェルの結末が知りたくなり、
シーズン7・8・9を飛び越えて、10のラストを観てしまい。
こんな鑑賞の仕方って、いけてませんよね(^^;)
また面白さにはまり、中古のシーズン9を購入しました。

久しぶりにお邪魔したら、なんとレイチさん、本を書かれてる!
ぜひ読ませていただきます。


こちらに伺ってすぐの頃、レイチさんの名前の由来がまったく
わからなかった私も、かなり「フレンズ」通になってきたかも。
また通わせていただきます。

Posted by Emi at 2008年09月12日 20:26
Emiさんへ
こちらこそ、ご無沙汰しております。ご訪問&コメント、ありがとうございます。

そして、さらには、貴ブログでも、私の本についての記事を書いて下さってありがとうございます。記事のタイトルに本の題名を使っていただいて大変光栄です。また、早速、アマゾンで購入して下さったとのこと、とっても嬉しいです! 同じ英語学習者として、何かを感じていただけるといいなぁ、と思います。

どうしても結末って気になってしまいますよね。でも、大まかなストーリーを知った上で、安心してから(笑)、じっくり英語のセリフに取り組む、というのもアリかな、と思います。

また、フレンズで盛り上がれるといいですね。こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。
お互い、英語学習、頑張りましょう!
Posted by Rach at 2008年09月13日 11:40
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