2008年12月21日

キスする対象は人間か部位か フレンズ3-16その22

(He kisses her on her shoulder, then her neck, then the side of her face, then just before he kisses her on the lips....)
ロスは彼女の肩にキスをする。それから、首、そして彼女の顔の横に、そして彼女の唇にキスする直前に…)
レイチェル: No, Ross!! (stands up and moves away from him) Don't! You can't just kiss me and think you're gonna make it all go away, okay? It doesn't work that way. It doesn't just make it better. Okay? (いやよ、ロス! [立ち上がり、彼から離れる] やめて! ただキスをして、すべてがどこかに去ってしまうように思うことは出来ないのよ、いい? そんな風にうまくはいかないわ。それで状況をよくすることにはならないの、いい?)
ロス: Okay, okay, okay. (わかった、わかった、わかったよ。)
レイチェル: (softly) I think you should go. ([静かに] あなたは出て行くべきだと思う[出て行って]。)
ロス: What? (何だって?)
レイチェル: (softly) I really think you need to go now. ([静かに] 今、あなたは出て行く必要があるって、私は本当に思ってるのよ。)

He kisses her on her shoulder, then her neck.... というト書きについて。
今日は、この部分の説明が長くなります。

日本語では、「”彼女の肩に”キス(を)する」と表現しますが、ト書きではそれを、kisses her shoulder とは言わずに、kisses her on her shoulder と表現していますね。
通常は、kisses her on the shoulder と体の部分を表す名詞の前に the を用いることが多いように思いますが、kisses her on her shoulder というのも、このト書きを見る限りは、「アリ」なんでしょうね。
どうして、the ではなくて、her を使っているのかを、私なりに勝手に想像してみると、her shoulder の後、her neck, (the side of) her face と目的語だけが続くので、the だけだと、kiss her 「”彼女に”キスする」という「彼女」のイメージがだんだん薄まってしまうから、それぞれ、部位の名前に her をつけた、ということなのかなぁ、と。
ト書きの最後は、he kisses her on the lips で、ここでは、her lips ではなくて、the lips です。
彼女の唇にキスをする、というのは、この kiss her on the lips が一番自然な表現ですね。
the 「その」と定冠詞をつけることで、目的語となっている her の唇だ、ということはおのずとわかりますし、上の部分のように、shoulder, neck, face と3つも続かないので、通常通りの、kiss somebody on the lips の形になっているのだろうと思います。

今回はキスの話ですが、英語では「彼の頭をたたく、殴る」という場合でも、hit his head ではなくて、hit him on the head と表現しますね。
「顔を殴る」だと、hit him in the face、「手を掴む」だと、catch him by the hand と表現したりします。
この部分、日本語と違う感覚で、英語っぽくて面白いなぁ、といつも思っていたのですが、過去記事、「英語にもっと強くなる本」を読んで で語った、晴山陽一さん英語にもっと強くなる本 (青春新書INTELLIGENCE) でも、この日英表現の違いについて触れられていました。
p.27 から p.28 にかけて、以下のような例文を挙げて、説明があります。

He struck me on the head. 「彼は私の頭をぶった。」
A ball hit me on the head. 「ボールが頭に当たった。」
日本語だと、被害を受けているのは「私の頭」であって「私」ではない。どこか他人事みたいな冷めたところがある。
英語では明らかに直接目的語の me が被害者となっている。


つまり、何かが当たって痛い思いをしたのは「私」という人間である、ということですね。
「彼は私をぶった」、どこをぶったかというと、on the head 「頭の上を(ぶった)」ということになります。
日本語だと、「私の頭をぶった」という見た目でわかる状況を説明していて、「だから私は頭が痛くて、むっとしている」ことが想像されるわけですが、英語のように人を目的語に取るほどのインパクトはないような気がします。

晴山さんは、日本語は「ことがら中心主義」である、英語は「人間中心主義」であり「人格尊重主義」である、と説明されています。
キスの様子を説明した上のト書きの場合も、「ロス(という男性)がレイチェル(という女性)にキスをする」という、ある人からある人に対する行為を述べていて、その場所がちょっとずつ変わっていくので、on her shoulder, then her neck.... という風に描写される、ということですね。
日本語では、「彼女にキスする」「彼女の唇にキスする」のどちらも自然な表現ですが、英語の場合は、kiss her lips ではなく、kiss her on the lips が自然である、ということの説明として、ちょっと詳しく説明してみました。
丸暗記したらおしまい、という話もありますが、その根底に流れる、日英の意識の違いに注目してみることも大事だと私は思っています。

ロスは、キスする前に、I love you so much. という正直な言葉を言っていました。
そしてキスで、二人は元通り…とはいかないんですね。
確かに男女の喧嘩の場合、こうやって仲直りすることも多いですが、でも今回は、今回だけは、「こういうこと」をされると、「こういうこと」をクロエにもしたんだわ、といやなことを思い出してしまう、彼女との一件をどうしても思い出さずにはいられなくなり、つい拒んでしまうのですね。
別に私にこういう経験があるわけではありませんが(笑)、女として、気持ちはよくわかります。

make it all go away は、今の困難な状況全部が、どっかにパーッと去って行ってしまうようにする、というニュアンスでしょうね。
キスすることで、全てをなかったことのようにはできない、これですべての問題を解消することはできないのよ、ということです。

レイチェルは softly に「出て行って」というセリフを言っています。
softly は「ソフトに、静かに、柔らかく、そっと」という感じですが、「もう出てってよ!」と怒鳴っていない分、余計に見ている方が悲しくなりますね。
こんな悲しそうなレイチェルの顔は、これまで見たことがない気がします。


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posted by Rach at 09:44| Comment(4) | フレンズ シーズン3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
新感覚★英文法12月で田中茂範先生もとりあげられています。
主語+名詞+動詞+前置詞句の形の説明で。
田中先生は英語の表現として全体を示してから具体的なことに進む傾向というふうに書いておられます
he hit me on the hand, she grapped me by the stoulder など

また
he loaded hay on the cart
he loaded the cart with hay
ともに「荷車に干草を積み込んだ」状況なのですが、、、
この違いは 先に持ってきた目的語のほうに関心があると書かれています
前者は干草に関心があり、後者は積み込まれた荷車に関心があると。
その感じで行くと、あくまで 彼にキスするも まず彼ありきで、そしてその頬にという感じなのかな〜と、今日の説明も聞いて英語のパターンについて感じます
Posted by かつての読者 at 2008年12月23日 01:13
かつての読者さんへ
コメント、ありがとうございます。
「全体を示してから具体的なことに進む傾向」というのは、その通りですね。
記事中、例に挙げた、hit him on the head も、
「彼は私をぶった」、どこをぶったかというと、on the head 「頭の上を(ぶった)」
と続きます。まずは「彼をぶった」という説明があり、そのあと、具体的な部分・部位を語り、ぶった様子を詳しく説明している、という感じですね。

挙げていただいた「荷車と干草」の例文もわかりやすいです。
load は「輸送物を積む」という意味と、「車・船などに積む」という意味があって、前者が loaded hay、後者が loaded the cart だということですね。
干草を積み込んだ、と言いたいのか、荷車に積み込んだ、と言いたいのかによって、先に持ってくるべき目的語が変わる、ということですね。
他動詞+目的語がメインとなり、その後の前置詞句で文をより詳しく修飾することになりますから、先に SVO をはっきり言ってしまってから、その後、説明を付け足す、という英語のパターンに当てはまりますよね。
Posted by Rach at 2008年12月23日 07:03
You can't just kiss me and think you're gonna make it all go awayについて
justは「kiss me」に対してではなく、全体(kiss me and think you're gonna make it all go away)に対するではないかと思いますが。(自信がない)
Posted by Fen at 2009年06月10日 16:17
Fenさんへ
just は、kiss me だけではなくて、kiss me and think... 全体にかかっている、という可能性はあるかもしれませんね。

私は、キスという行為”だけ”で、すべてのことをなかったことにはできない、ということが言いたいのかな?と思ったので、just を kiss me だけにかかるように解釈したのですが、「ただそんな風に思うことはできない」という風に、You can't just think... と考えることも可能な気もします。

Just one kiss can't make it all go away. みたいな意味の just かな、と思ったのですが、今では正直、よくわかりません。
Posted by Rach at 2009年06月12日 12:48
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