ジョーイとチャンドラーは、フィービーのお腹の子供に自分の名前をつけてもらおうと、フィービーにアピールしますが、その際に、ジョーイは「チャンドラーなんてばかげた名前だ」と言ってしまい、チャンドラーはまだそのことを気にしています。
ジョーイ: Dude, I am sorry about what I said. (なあ、あんなこと言ってごめんよ[俺が言ったことについては、悪かったと思ってる]。)
チャンドラー: Nope, nope, you're right. It is a ridiculous name! (いや、いや、お前は正しいよ。ばかげた名前だよ!)
ジョーイ: It's not that bad. (そんなに(お前が言うほど)ひどくないよ。)
チャンドラー: Yes, it is! From now on, I have no first name. (いや、ひどいよ! 今から、俺は名前(ファーストネーム)のない人間になる。)
ジョーイ: So, you're just Bing? (それじゃあ、お前はただのビング?)
チャンドラー: I have no name. (姓名[名字も名前も]なしだ。)
フィービー: All right, so, what are we supposed to call you? (いいわ。それじゃあ、私たちはあなたを何て呼ぶことになるのかしら?)
チャンドラー: Okay uh, for now, temporarily, you can call me... Clint. (よし、うーんと、今から、一時的に、俺をこう呼んでくれたらいいよ… クリントだ。)
ジョーイ: No way are you cool enough to pull off "Clint." (お前は全然、クリントって柄(がら)じゃないよ[クリントって名前にふさわしいほどにかっこ良くないよ]。)
チャンドラー: Okay, so what name am I cool enough to pull off? (よし。それじゃあ、俺がそれに十分ふさわしい名前は何だ?)
フィービー: Umm, Gene. (うーんと、ジーン。)
チャンドラー: It's Clint. It's Clint! (He heads for his bedroom.) (クリントだ。クリントだ! [チャンドラーは自分の寝室に向かう])
ジョーイ: See you later, Gene. (また後で、ジーン。)
フィービー: Bye, Gene. (じゃあね、ジーン。)
チャンドラー: It's Clint! Clint! (クリントだ! クリント!)
ジョーイ: What's up with Gene? (ジーンは(一体)どうしたんだ?)
チャンドラーという名前をジョーイにバカにされたチャンドラーは、もう俺はファーストネーム無しになる!と言っています。
それじゃあ、ただのビングになるのか?と言われて、それもいやだと思ったチャンドラーは、姓名共に無しの、全くの名無しになる!と宣言しています。
日本語では、ファミリーネームは、「名字・苗字(みょうじ)」と言いますが、ファーストネームの方は「名前」と言うので、「名前」という日本語だと、ファーストネームだけなのか、姓名両方なのかがわかりにくいですね。
今回のように、first name と name の違いを出すことが必要な場合は、特にややこしいです。
「名前無し、名無し」になる!と言われても、何かしらの呼び名がないとフレンズたちも困ってしまうので、何て呼んだらいいのかしら、何て呼ぶことになるかしら?とフィービーは尋ねています。
チャンドラーはしばらく考えた後、クリント(Clint)という名前を挙げていますね。
クリントという名前の響きがかっこいいからその名前を出した、という感じもするのですが、実は、「名無しの男」→「クリント」という流れは、クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)の映画での役柄から来たもののようです。
Wikipedia 英語版: Clint Eastwood
ウィキペディアの最初の部分に以下の説明があります。
he went on to star as the Man With No Name in the Dollars trilogy of Spaghetti Westerns
つまり、「マカロニ・ウエスタン(イタリアで作られた西部劇)の「ダラーズ[ドル]三部作」での「名前のない男[名無しの男]」としてクリントはスターになった」
Dollars trilogy とは、The Man with No Name Trilogy とも呼ばれている映画三部作のことで、以下の3作品を指します。
A Fistful of Dollars (邦題:荒野の用心棒)
For a Few Dollars More (邦題:夕陽のガンマン)
The Good, the Bad and the Ugly (邦題:続・夕陽のガンマン/地獄の決斗)
イタリア人のセルジオ・レオーネ(Sergio Leone)監督により作られた、クリント・イーストウッド主演の西部劇です。
この映画をきっかけに、マカロニ・ウエスタンというジャンルが人気になるのですね。
このようにイタリアで作られた西部劇を日本語では「マカロニ・ウエスタン」と呼んでいますが、英語ではそれを Spaghetti Westerns (スパゲティ・ウエスタンズ)と呼んでいるのも興味深いところです。
はっきりと「三部作」として作られたものではないようですが、その三作では、クリント・イーストウッドが名無しの寡黙なキャラとして登場しているので、シリーズものとして捉えられているようです。
3つのうち、2つのタイトルに、Dollars という単語が入っているので、Dollars trilogy と呼ばれているようですね。
その「名無しの男」については、詳しくは以下で。
Wikipedia 英語版: Man with No Name
そのウィキペディアの Name という項目に詳しく書いてあるのですが、クリント演じる「名無しの男」は、三部作それぞれの映画の中で、それぞれ別のニックネームで呼ばれています。
(1作目は Joe (ジョー)、2作目は Manco (モンコ)、 3作目は Blondie (ブロンディー)。)
でもそれはあくまでも「あだ名、呼び名」であって、彼の本当の名前ではない、という設定だそうです。
Wikipedia 日本語版: 続・夕陽のガンマン
の「概要」という項目にも、「「名無し」役は三つの仇名で呼ばれる」「三作とも単なる仇名である」という記述があります。
ですから、チャンドラーが、「俺は名無しの男になる」→「クリントと呼んでくれ」と言ったのは、この有名な映画三部作で、クリント・イーストウッドが、the Man With No Name という役柄を演じていたことが出典であるのは恐らく間違いないでしょう。
「俺をクリントと呼んでくれ」と言うチャンドラーに、ジョーイは、No way are you cool enough to pull off "Clint." と言っています。
no way は「決して…ない」という強い否定です。No way! と単独で使うと、「とんでもない! 絶対だめだ! いやだ!」という意味になりますよね。
No way are you cool enough... という文章で、are you と倒置になっているのは、「否定語が文頭に来た場合は倒置(否定語+V+S)になる」という文法事項に則ったもの。
pull off は、「(難しいこと・困難なことを)見事に・うまく・首尾よくやってのける、成功させる」という意味があります。
LAAD (Longman Advanced American Dictionary) では、
pull off (phrasal verb)
1. pull something off / pull off something (informal) to succeed in doing something difficult
例) The Huskies pulled off a win in Saturday's game.
つまり、「何か難しいことに成功すること」。例文は、「ザ・ハスキーズは、土曜日の試合に見事に勝利した。」
ですから、you are cool enough to pull off "Clint" は「クリントという名前を見事にこなすのに十分なほどかっこいい」となるので、それを no way で完全否定したジョーイのセリフは、「お前はクリントって名前にふさわしいほどかっこよくない、クリントって柄(がら)じゃないよ」と言っているのですね。
じゃあ、どんな名前ならふさわしいんだ?と返すチャンドラーに、フィービーは Gene という名前を出します。
Gene と言えば、「雨に唄えば」(1952)の Gene Kelly (ジーン・ケリー)や、「フレンチ・コネクション」「ポセイドン・アドベンチャー」などの Gene Hackman (ジーン・ハックマン)などがいますよね。
名前の持つイメージ(どういう名前がかっこ良くて、どういう名前がダサいか)は、ノンネイティブにとってはわかりにくいところです。
この場合も、クリント・イーストウッドのようなかっこいいイメージの「クリント」に比べて、それよりはかっこよくない感じの名前として「ジーン」という名前を挙げた、という可能性もありますが(全世界のジーンさま、お許しを)、いろいろ調べてみて、これも、クリントつながりの名前なのかなぁ?という気もしてきました。
英語の解釈から離れて、ただの趣味の世界に入ってしまいますが、「クリント」から「ジーン」という名前に繋がった経緯を、私なりに考えてみましたので、それを以下に説明しておきます。(自信はありませんが、一つの仮説として。)
上に名前が出たジーン・ハックマンですが、1992年のクリント・イーストウッド監督の映画「許されざる者」(原題:Unforgiven)で、主演のクリントと共演しています。
Wikipedia 日本語版: 許されざる者 (1992年の映画)
この映画はアカデミー賞の作品賞、監督賞を受賞し、ジーン・ハックマンは助演男優賞を受賞しています。
この映画で、ジーン・ハックマンは、悪役の保安官ビル・ダゲットを演じています。
その設定を考えると、「あなたはクリントっていうよりジーンよ」と言ったフィービーの頭の中には、この「許されざる者」の映画の配役のイメージがあったのでは?と思うのですね。
今回の フレンズ4-18 は、1998年4月に放映されたもので、1992年の「許されざる者」の後になりますから、その映画からの出典も十分考えられると思います。
つまりフィービーは、「あなたは主役のかっこいいクリント(・イーストウッド)じゃなくて、どっちかって言うと悪役のジーン(・ハックマン)の方が合ってるわ」と言いたかったのかなぁ、と。
ジーンと言われたのが気に入らないチャンドラーは、「クリントだ!」と頑張るのですが、ジョーイとフィービーは、もうジーンで決まりだ、とでも言うように、「じゃあね、ジーン」などと声を掛けているのが面白いです。
怒って寝室に入ってしまったチャンドラーを見て、「ジーンのやつ、一体どうしたんだ? 何怒ってんだ?」みたいに、まだ「ジーンねた」をしつこく引っ張っているのも楽しいですね。
(Rach からのお願い)
このブログを応援して下さる方は、下のランキングサイトをクリックしていただけると嬉しいです。
人気ブログランキング
にほんブログ村 英語ブログ
皆様の応援クリックが、とても励みになり、ブログを続ける大きな原動力となっています。心より感謝いたします。
ドラマのこのシーンを見ていた時は、ClintはたぶんClint Eastwoodのことだろうくらいは思いましたが、それほど気にかけずに、まあ理解できる場面だ程度の認識でしたが、Rachさんの解説を拝見し、なるほど奥が深いなあ、とあらためて感じました。そのClintは子供のときにTVのローハイドで初めて見たことも思い出しました。もう80歳ですね。いろいろと勉強になります。
コメントありがとうございます。
クリント・イーストウッドは日本でも有名なので、Clint という名前でそのイメージは浮かびますよね。
the Man With No Name という役柄で有名であるという流れから Clint という名前が出てきたのだとすると、面白いですよね。何でもかんでも出典があるわけでもないのでしょうが、何らかの連想や繋がりがあったりする方が脚本やジョークとして深いものになるでしょう。フレンズの脚本はよく練られているので、そういう部分を(当たっているかどうかはともかく)いろいろ深読みしてみるのも面白いかな、と思いながらいつも記事を書いています。
クリント・イーストウッドは監督としても成功しましたね。いつまでも活躍していただきたいです。