2011年09月08日

所有格のme (possessive me) フレンズ6-4その2

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前回の続きです。
ロス: How weird is that? Y'know? You're moving in with me and have the one thing I don't have. It's like uh, in a way, you, you complete me. (Phoebe glares at him) Kitchen. (それってどれくらい不思議かなぁ。ほら、君は僕のところに引っ越してくる、そして僕が持っていない1つのものを持っている。それってまるで、ほら、ある意味では、君が、君が僕を完全なものにする[完成させる]んだよ。[フィービーがロスをにらむ] 台所をね。)
レイチェル: What? (何?)
ロス: (in an Australian accent) You complete me kitchen, matey! ([オーストラリア・アクセントで(訳注:私はイギリス・アクセントだと思いました。以下の解説でそれを説明しています)] 君が僕の台所を完全なものにするんだよ、メイティ[友よ]!)

前回の記事、フレンズ6-4その1 で解説したように、ロスはレイチェルに、You complete me. という言葉を使います。
それが愛する人に対して使うロマンティックなセリフだったので、フィービーはロスをにらんでいます。
そこでロスはとっさに、Kitchen. という言葉を付け加え、さらには、matey という言葉も付けた形の文章、You complete me kitchen, matey! というセリフを言います。

ネットスクリプトのト書きには「オーストラリア・アクセント」と書いてあるのですが、私はイギリス・アクセント(イギリス英語)だと思いました。
以下でその説明をさせていただきます。

まず、You complete me kitchen の me の用法について。
本来であれば、所有格の my が使われるところに、me が使われていますね。
私が過去に見てきた映画の中でも、そういう用法に何度か出会ったことがあります。

まず1つ目は、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート3」。
西部開拓時代にタイムトラベルしたマーティは、自分の祖先であるマクフライ家の人々に助けられるのですが、マギー・マフクライ(マーティのママ役のリー・トンプソンが一人二役を演じています)が自分の夫(これはマーティ役のマイケル・J・フォックスが演じています)を紹介する時に、
マギー: Me husband. (私の夫よ。)
と言っていました。
これは、My husband. を Me husband. と言っているわかりやすい例ですね。
実際、Wikipedia 日本語版: バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズの登場人物 の「1885年のマクフライ家」のマギー・マクフライの説明の中に、
アイルランド訛りで話す(既婚女性を指す「ミセス」を「ミサス」、「私の」を意味する「My」を「Me」と発音している)。
という記述も載っています。
アイルランド訛り(Irish accent)だと、British accent (British English) とはまた異なる部分もありますが、とりあえずはこのセリフから、アイルランドでも my を me と発音するらしい、ということがわかりますね。

次は映画「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド](原題: Pirates of the Caribbean: At World's End)(シリーズ3作目)。
この中でのセリフに、
ムルロイ(Mullroy): Shiver me timbers.
というものがあるのですが、これも本来なら、Shiver my timbers. となるはずが me になっている例になります。

Wikipedia 英語版: Shiver my timbers では以下のように説明されています。
Shiver my timbers (or shiver me timbers using the possessive me) is an exclamation in the form of a mock oath usually attributed to the speech of pirates in works of fiction.
つまり、「shiver my timbers (または、所有格の me を使っている shiver me timbers)は、小説における海賊の話し方を起源とする、にせのののしり語の形をとった感嘆の叫び声である。」

possessive me 「所有格の me」が、今回ポイントとなっている、my の代わりに使われている me のことですね。
そのウィキペディアのリンクをたどった先の、Wikiepedia 英語版: Possessive me では、
"That's me house" (That's my house)
のような例も載っていて、以下の説明もあります。
This is probably not a result of confusion between the possessive pronoun "my" and the object pronoun "me", as is often believed. In Middle English my before a consonant was pronounced [mi:], like modern English me... (以下省略)
つまり、「恐らくこれは、しばしば信じられているような、所有格代名詞の my と 目的格代名詞 me の混同の結果ではない。中世英語では、子音の前の my は、現代英語の me のように、「ミー」と発音されていた…」

ウィキペディアの情報が学術的に必ずしも正しいわけではありませんし、probably 「恐らく、たぶん」という言葉も使われているため、絶対とは言えませんが、所有格と目的格を混同したのではなく、かつて、my を「ミー」と発音していた時代があり、その名残で、地方によっては、my を me 「ミー」のように発音する、そのため、スペルも me で表記することがある、というのが真相なのかな、と私も思います。

このような me/my を話題にしているフォーラムもありました。
WordReference Forums : EN: me / my - possessive adjective

そのフォーラムでも、「イギリスにおける地域的発音である」というような説明がされていますので、やはり、格の混同というよりは、発音の「ミー」という音から、me と表記してある、と解釈できると思います。

ちなみに余談ですが、Shiver me timbers! と叫んでいたムルロイという人は、パート1にも出ていた、英国海軍のコミカルコンビの一人です。
(以下、少々、「ワールド・エンド」のネタバレになってしまいますが)
ムルロイたちは海賊側の船に潜入して、海賊の服を着ていたのですが、最後にはすっかり「海賊かぶれ」みたいになってしまって、海賊側が勝ったことを喜んでいるセリフ、それが、Shiver me timbers! でした。
このフレーズは海賊がよく使うものの1つなわけですが、海賊と敵対するイギリス海軍の海兵だった人がそのフレーズを使っているところに、「彼はすっかり海賊にハマってしまい、魅せられてしまった」ことがわかるということでしょう。
他の船員たちがあっけにとられたような顔でムルロイを見ているのも、そういう理由からだろうと思います。

次に、matey の説明に移ります。
研究社 新英和中辞典では、
matey=《英口語》【名】【C】 [通例呼び掛けに用いて] 仲間、相棒

ロングマン現代英英辞典 (LDOCE) では、
matey (2) : [noun] [British English] (informal) used by men as a very informal or disrespectful way of speaking to another man
つまり、「(イギリス英語、インフォーマル) 別の男性に、非常にインフォーマル、または無礼な感じで話しかける方法として、男性によって使われる」。
直訳したので回りくどいですが、要は、男性が他の男性にインフォーマルに話しかける時に、matey と呼び掛ける、ということですね。
辞書の説明にも「イギリス英語」だと明示されています。

この matey という言葉もまた、「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」に出てきます。
使っているのは、ヘクター・バルボッサ(船長)。
バルボッサ: It be too late to alter course now, mateys.
バルボッサ: Feast your eyes upon this, mateys.
のような形で出てきました。
主人公のジャック・スパロウは、シリーズ全編を通して、I couldn't resist, mate. (パート1)、Sea turtles, mate. (パート3)などのように、語尾によく mate という言葉を付けています。
バルボッサはその mate の代わりに、matey の方を良く使う、ということのようです。

ちなみに上の2つ目の、Feast your eyes... というセリフですが、IMDb の quotes には以下のように書いてありました。
IMDb : Quotes for Captain Hector Barbossa (Character)
Captain Barbossa: Relax, me mateys! Look at this!

この me mateys がまさに、my friends や my buddies みたいな感じの呼び掛け語ですね。
実際の彼のセリフがこの me mateys であったなら、このセリフだけで、今回のロスのセリフのニュアンスのかなりの部分を説明できたのですが、あいにく実際のセリフを DVD で確認してみると、英語字幕通りの Feast your eyes... という言葉をしゃべっていて、me mateys とは言っていません。
ただ、このように quotes でそう書かれているということは、me mateys が「バルボッサがいかにも言いそうなフレーズ」である、ということで、海賊のセリフによく使われる言い回しだと言えるでしょう。
実際、海賊関係のことを書いている個人サイトの見出しに、(Ahoy) me mateys のようなフレーズが使われているのもいくつか見ましたので、me possession や matey は、海賊のセリフによく登場すると言えると思います。

ここまで、「パイレーツ・オブ・カリビアン」で使われている「海賊の英語」に出てくる、という話をしてきましたが、この映画は、英国海軍や東インド会社が舞台となっている話ですし、時代を考えても、その海賊たちの英語はイギリス英語が元になっているはずです。
そういう意味からも、オーストラリア英語だと判定するよりは、イギリス英語だと解釈する方が自然なのでは?と思うのですね。(イギリスではなくオーストラリアだと決める根拠がない、と言いますか…)
発音という「音」から判断したのではなく、その「言い回し」からイギリス英語だろうと私は思った、ということです。

イギリス英語、とは言っても、ロスが話しているのは「インチキ・ブリティッシュ・アクセント」みたいな感じなので、「イギリス」という断言もできないのかもしれませんが、そういう違ったアクセントを使っていることで、違った国の言葉遣いも真似している、ということがわかればいいと思います。
実は今回のエピソードは、そういう「外国アクセント」がプロットの1つになっています。
導入部分で、アクセントにまつわるセリフを持ってきて、後の展開を示唆している、という効果もあるのでしょう。

me と matey の説明が長くなりましたが、どうしてロスは、me の後に kitchen という言葉を言い、さらには matey をも付け加えたかと言うと、complete me. だと目的格で文章が終わってしまうので、me kitchen とした上で、me が my の意味であるかのように思わせ、それをさらに確実にするために、(アメリカ人はあまり呼び掛け語に使わない) matey というイギリス英語を付け足して、「僕は me って言ったけど、元々、その後に kicthen って言葉を付け加えるつもりだったんだ、この me はイギリス人がよく使う、possession me なんだよ」とレイチェルに思わせようとした、ということです。
「君が僕を完全にする」というような愛のセリフを言ったわけじゃなくて、「君が栓抜きを持ってきてくれるおかげで、僕の台所は完全なものとなる、完璧になる」って言いたかっただけなんだ、と、とぼけてみせた感じでしょうね。


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posted by Rach at 14:29| Comment(3) | フレンズ シーズン6 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめてブログを拝見させていただきました!
南谷さんに興味を抱き、学習歴のページも熟読致しました(笑)
私も10年以上英語学習を続けておりまして、
現在は英会話教室で超初心者の方向けに講師もしていますが、
実際のところ、自身の英語力にはまだまだ満足できていません。
DVDを利用した英語学習にはまだ挑戦したことがないので、
これからこちらのブログを参考にさせていただきながら、
取り入れてみたいと思います!
Posted by イーミックス at 2011年09月08日 16:41
「ザ・エージェント」,懐かしいですね.私はあの映画でキューバ・グッディング・ジュニアのファンになりました.レニー・ゼルウィガーがB級映画のヒロインからステップアップした映画でもありました.

ところで本題です.日本語版の wikipedia にもあるように,オーストラリア英語の起源はコックニーです.

おそらく,一般的なアメリカ人であるロス(とドラマの視聴者)には,オーストラリア訛りとコックニーの(それにもしかしたらアイルランド訛りやそのほかの地方の訛りも)厳密な聞き分けはできないのではないかと思います.

該当の場面で例えば british accent と書かれていると,想像するのは下町訛りやアイルランド訛りではなく,いわゆるクイーンズ・イングリッシュになってしまうような気がします.

コックニーとせずにオーストラリア訛りとしたのは,そちらの方が馴染み深かったせいなのかもしれません.(想像です)

また,matey についてですが,mate を呼びかけに使うこと自体が,一般的には奇異な感じがすると思います.辞書を見ても

[労働者・水夫などの間の親しい呼び掛けに用いて] 《主に英国で用いられる》 兄弟,兄貴

という意味が載っています.

私の想像では,mate,matey という言葉自体が海賊っぽさ(コックニー?)を表す言葉ではないかと感じます.その中での使い分け(があるのかも)についてはよくわかりませんが・・・

ほとんどが想像の話ですみませんが,私はオーストラリア訛りという表現はしっくり来ました.
Posted by さへき at 2011年09月09日 00:19
イーミックスさんへ
はじめまして。ご訪問&コメント、そして、学習歴のページも熟読していただいたとのこと、ありがとうございます。

DVDを利用した英語学習は、自宅にいながらにして、ネイティブの生きた英語にどっぷり浸れる、というのが何よりの利点だと思います。好きな作品であれば、本当に楽しく英語学習を進めることができる、と私は思っています。
拙ブログが何かの参考になれば光栄です。これからもよろしくお願いいたします。


さへきさんへ
キューバ・グッディング・ジュニアは憎めないキャラだし、レニー・ゼルウィガーも可愛かったですね。また、あの子役の子も実に可愛いです。

さて、オーストラリア英語に関する貴重な情報、ありがとうございます。
そうなんですね、「オーストラリア英語の起源はコックニー」なんですね。

私の持っている本で、「アクセント」を扱っている本が2冊あります。
「ナマった英語のリスニング」 (ジャパンタイムズ)
「4カ国の英語 リスニング強化ブック」 (ジャパンタイムズ)

今回、私は「これはイギリス英語のはずだ」という仮説のもと、ひたすらイギリス英語の箇所ばかり調べていたので見逃していたのですが、上に挙げた本のどちらにも、オーストラリア英語はコックニーが元になっている、というような記述がありました。
ロスのしゃべり方はコックニーのような感じで、それがオーストラリア英語のような印象を与えた、という可能性は大いにありますね。

おっしゃるように、アメリカ人だと、イギリス周辺の国や地域の各アクセントの厳密な区別はつかないということはあるでしょうね。日本人の場合も、自分の出身地域周辺の方言の区別はできても、離れた地方の方言の違いはわからない、というのと同じでしょう。

上に挙げた本ではどちらの本でも、

British English と言えば一般的に、イングランド南東部の Received Pronunciation (RP、容認発音)を指す

という説明が載っています。
また、「リスニング強化ブック」の p.16 には、

RP と Queen's English (QE) とは別物

という記述もあります。
イギリス英語と言えばクイーンズ・イングリシュ、というイメージは私にも浮かぶのですが、RP はまたそれとは別物、というのは非常に興味深い話だと思います。

アメリカ人は呼び掛け語に mate は使わない気がしますね。
上に挙げた「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジャック・スパロウ以外では、映画「ハリー・ポッター」で、mate が呼び掛け語として使われていた記憶があります。
それを考えてもやはり、イギリス人は mate を使う、と言える気がしますね。

mate と matey の使い分けは個人の好みかなぁ、と思ったりするのですが、これはよくわかりません。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」に関しては、スパロウとバルボッサの口調を区別するために、mate と matey のように別の言葉を(脚本家が)使わせている、ということなのかな、と。

アクセントの話は、ノンネイティブにはなかなか難しい分野ですが、今回ご意見をいただいたことで、改めて、オーストラリア英語、イギリス英語について調べ直すことができました。ありがとうございました。
Posted by Rach at 2011年09月12日 17:47
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